生活保護と持ち家の関係|家を売却しなくても良い条件とは
生活保護の申請をする人の全員が賃貸物件に住んでいるとは限りません。
中には一戸建てに住んでいる人もいるでしょう。
あるいは別荘に代表されるような普段は住んでいない持ち家があることも考えられます
このようなケースで生活保護を受給することができるのでしょうか?
今回は、生活保護を受ける人が持ち家を処分するべきパターンと、持っても良いパターンを解説します。
このページの概要
生活保護とは
生活保護制度とは、経済的な理由から生活が困窮している人に対して「国が定めた最低限度の生活」を保障する制度です。
客観的に世帯員全員が利用できる「資産」「扶養義務者の扶養」「能力」「あらゆるもの」を全て活用しても最低基準に満たないことを証明する必要があり、それができた場合に生活保護費を受け取ることができます。
生活保護を受けるための要件
生活保護は、申請すれば誰でも受け取れるわけではありません。
生活に困窮しているだけではなく、以下の4つの要件を全て満たす必要があるのです。
- 収入がないこと
- 持っている資産は活用すること
- 働いたくても働けないこと
- 扶養してくれる家族・親族がいないこと
収入がないこと
憲法が保障する「最低限度の生活」は、国が定めた最低生活費が基準になります。
収入が最低生活費を超えている場合は受給できません。
収入としてカウントされるのは、働いて得た報酬だけではありません。年金や生命保険の解約返戻金、資産を売却して得たお金も収入としてのカウントの対象です。
一方で、収入があるけど最低生活費には満たないという人もいるかも知れません。
その場合は最低生活費から収入を差し引いた差額が支給されます。
持っている資産は全て活用する
資産とは不動産のほか、預貯金や自動車、貴金属などが該当します。
まずは、こうした価値のある資産を処分することで生活を立て直せるのではないかという検討が行われます。生活保護の受給の際には、こうした価値のある資産は処分することが求められるのです。
ただし、最低限の生活に必要なのであれば、処分しなくても良いという判断が下される場合もあります。
例えば「1台目の携帯電話・スマートフォン・タブレット・パソコン」です。
これらは2台目以降は売却の対象ですが、1台であれば所有が可能です。
場合によっては持ち家も所有が認められます。
持ち家の条件などについては今回のメインテーマとして、あとから詳しく解説します。
働きたいのに働けない
生活保護を受けようとする者は、能力が許す限り働くことを求められます。
病気やケガによって働けないといったやむを得ない理由であれば働かなくても支給の対象ですが、働ける能力があって就職できる職場があるにもかかわらず仕事をしない人は受給することができません。
例えば、病気が原因で働けなくなって生活保護を受給した人の病気が完治したとします。
そうなれば働けるはずですので、ケースワーカーは「ハローワーク等で職探しをするように」という指導を行います。
この指導に従わずに働く意思を見せない場合は、最終的に生活保護が打ち切りになることがあります。
扶養してくれる家族・親族がいない
生活保護の申請のあとのケースワーカーによる調査では、扶養する義務がある直系血族・兄弟に「扶養の可否」を確認します。
扶養義務者が扶養するとなった場合は、扶養費が収入とみなされます。
ただし、この確認があったとしても扶養するかは任意であって強制ではありません。
扶養義務者が扶養を拒否したとしても、行政側は生活保護の支給を拒否できないのが原則です。
誰からも扶養による援助を受けることができない場合、保護の対象になります。
逆に家族・親族の扶養に入れる場合は、原則として保護を受けることはできません。
持ち家があると生活保護は受けられない?
活用できる資産は全て活用するのが基本的な考え方であることは、すでに解説しました。その時に気になるのは「持ち家はどうなるの?」ということではないでしょうか?
持ち家については、厚生労働省の基本的な考え方に沿って指導が行われます。
- 基本的に不動産は売却する
- 被保護世帯の居住の用に供される家屋と付随する土地は保有を容認
- ただし、処分価値が大きい場合は売却などで資産の活用をしたうえで保護の要否を判断
原則は持ち家も売却の対象
持ち家は、基本的には資産と捉えられるため、所有している場合は生活保護の対象にはなりません。
住まいとして利用していない持ち家(別荘など)は売却によって現金化しやすい状況にあるため、まずは売却する方向で話が進むことになるでしょう。
住む場所がなくなる場合は住み続けられる
持ち家であっても、売却することで住む場所がなくなってしまうようなケースでは持ち家の保有と生活保護の受給が認められます。
住んでいない土地や建物はすぐに売却することが可能ですが、すでに人が住んでいる家は即時現金化できる資産とはみなされません。居住している持ち家を売却して住む場所を失うことで生活保護受給者との生活は困窮してしまいます。
この場合、最低限度の生活からさらに遠ざかることになるため、所有が認められるのです。
持ち家を売却して賃貸アパートに引越しでかかる家賃扶助額より持ち家を保有させた方が扶助額が安い場合等のケースでも、持ち家のままで生活保護を受けられる可能性があります。
高齢者住宅はリバースモーゲージが優先
リバースモーゲージ(要保護者向け長期生活支援金)とは。申込者が単独で自宅を所有している場合に、不動産を担保にして金融機関からお金を借りるローンのことです。
福祉事務所に生活保護の相談を持ち掛けた場合、年齢が65歳以上で持ち家がある人なら生活保護よりもリバースモーゲージが優先して適用されます。
持ち家の評価の7割が融資の限度額であり、年金の形でお金を受け取ることになります。
本人の死後に不動産を処分して残債を回収するため、本人が元金を返済する必要はありません。
住宅ローンを完済した住宅は住み続けられる
持ち家を持っている場合、住宅ローンを組んでいることが多いでしょう。
住宅ローンは借金ですから、生活保護の対象外です。
原則として、生活保護費で借金を返済することは認められていません。
なぜなら、ローンが残っていると生活保護の受給費が返済に充てられてしまい「資産の形成」になるからです。
一方で住宅ローンのない持ち家であれば、生活保護の対象になります。
固定資産税が高い(価値がある)住宅は売却の対象
持ち家を所有したままでいられるか、いられないかは持ち家の価値によっても変わってきます。売却すれば2,000万円を超えるような資産価値が高い持ち家の場合、売却を指導されるのが一般的です。
資産価値だけではなく、家族の人数に対して広すぎる家も資産価値が利用価値を上回ると判断される場合があります。2人や3人しかしない家庭で5LDKや6LDKといった大きい家に住んでいる人が生活保護を受けるというのは、周囲の理解が得られないでしょう。
厚生労働省では持ち家の売却の基準を以下のように設定しています。
標準3人世帯の生活扶助基準額に同住宅扶助特別基準額を加えた額の概ね10年分(約2千万円)を目処。
引用元:厚生労働省|不動産の保有の考え方
この基準を超えている場合は、原則として売却する必要があると覚えておきましょう。
持ち家を売却したくない場合、居住地の福祉事務所に相談してください。
持ち家の売却指導が入っても、どうしても住み続ける方法としてリースバックを提案されることもあります。
リークバックとは、売却したあとに借りて住み続ける方法のことです。ただし、必ずしも利用できるかは限りません。
田畑や山野は認められる場合がある
田畑は、広さが世帯の人数に見合ったものであり、収入増加に貢献するものなら所有を認められます。
また、薪などの自給用や採草用に利用している山野であれば、ほかの低所得者層と大きく収入に違いが出ない限りは所有を認められます。
ただし、これらの土地を処分した時の資産価値が大きい場合は売却を求められる場合もあることを知っておきましょう。
親の死亡で家を相続した場合はどうなる?
生活保護の受給中、親の死去によって不動産を相続することになった場合どうなるか分かりますか?
生活保護法の規定によれば、「資力があれば支給された生活保護費を返還しなければならない」とされています。
相続をした不動産の価額によっては、生活保護の受給に影響が出てきます。
状況次第では全額返済という事態も十分にあり得るのです。
資産価値の価値の高い不動産を相続すると受給できない
資産価値が高い不動産を相続した場合、「資産活用の原則」によって処分が勧められます。売却によって多額の現金を得ることができるため、収入は最低生活費を上回るでしょう。
生活保護法では、被保護者が保護を必要としなくなった時は、保護の停止か廃止を決定することになっています。
停止は、当面は生活保護を受けなくても生活できる資力がある場合に適用されます。
短期間で底を尽きることが明らかであれば、生活ができる期間だけ支給しないようにし、資金が尽きた時点で支給を再開します。
一方の廃止は、保護の要件から外れる資金を得た場合に行う処置です。
完全に保護の対象外になった場合に適用されるため、万が一再び生活に困窮した場合はもう一度最初から申請しなければなりません。
生活保護受給のための相続放棄はNG
相続放棄とは、被相続人の財産に関する相続権の全てを放棄することです。
対象となるのは被相続人の全ての財産で、預貯金や不動産などのプラスの財産だけではなく借金などのマイナスの財産も含まれます。
相続を放棄した場合、プラスの財産もマイナスの財産も相続人が承継することはありません。
相続によって価値の高い資産を受け取れそうなことが分かった時、今後も生活保護を受給するために相続放棄の手続きをすることができるのでしょうか?
結論をいってしまうと、生活保護を受ける者は相続放棄することは許されません。
生活保護法では、生活に困窮する者が資産、能力などあらゆるものを活用しても生活に困窮する場合には保護の対象になります。
資産価値のあるものを受け継ぐことで、保護から脱却することが可能になることが分かっているのに、生活保護を受け続けるための放棄はできません。
被保護者が死亡した場合の持ち家はどうなる?
原則は一般の相続と同じ流れ
被相続人(亡くなった人)が生活保護の受給者だとしても、不動産の相続方法が特別に異なることはありません。
ただし、生活保護の受給者が維持管理に費やす費用は限定されており、住宅の状態は良好でないのが一般的です。
売却した時、市場の相場よりも安くなる可能性があることは知っておきましょう。
リバースモーゲージを利用していれば売却
持ち家を持っている65歳以上の高齢者が生活保護の相談した場合、福祉事務所の担当者がリバースモーゲージを勧めることが多くなっています。
親が生活保護を受けていたとばかり思っていたのに、あとから「使っていた制度はリバースモーゲージだった!」なんてこともあります。
この場合、通常の相続とは違う流れになるため注意が必要です。
リバースモーゲージは自宅を担保にする借金であり、契約者が死亡した場合は速やかに競売にかけられます。
この自宅を相続人が取り戻すためには、以下の手段のいずれかを実行するしかありません。
- これまでの借り入れたお金を一括返済する
- 競売にかけられた際に自分で落札する
このような事態を防ぐためには、両親の生活が苦しくて生活保護を受ける前にサポートすることが大切になるでしょう。
生活保護で固定資産税が減免になるケースもある
自治体によって申請方法は異なるものの、生活保護受給による固定資産税の減免を行うこともできます。
減免の対象になるのは、「生活保護の規定による生活扶助、医療扶助などの公的扶助を受ける人が所有する資産」「生活困窮のため私的な扶助を受ける方で、所得の見込み額が皆無又は生活保護基準相当以下である人が所有する資産」のいずれかに該当する場合です。
その資産が共有状態になっている場合に限り、その人の持分に係る固定資産税が減免の対象です。
生活保護と持ち家の関係 まとめ
今回は、生活保護者が持ち家を処分すべきパターンと処分せずに持ち続けられるパターンを解説しました。
原則として、持ち家を含めた不動産は売却が前提であることは覚えておきましょう。
ただし現在住んでいる住宅などの一定条件を満たすのであればそのまま持ち続けることも可能です。
もし「このケースは持ち続けられるのか?」と疑問に思うことがあれば、お住まいの福祉事務所のケースワーカーに確認を行いましょう。