生活保護の扶助は8種類|それぞれの特徴と保護の要件
病気やケガといった理由で収入が激減してしまい「生活保護を受給したい……」と悩んでしまう人も多いのではないでしょうか。
生活保護は国が定めた最低限度の基準を下回る収入しかない人に、最低生活費と世帯収入の差額を支給する制度です。
ひとくちに「生活保護」といっても、その扶助内容は8種類に分かれます。
今回は、生活保護の8種類の扶助の内容について解説します。
このページの概要
生活保護とは
生活保護は憲法の定めに基づいて、国が生活に困っているすべての人々の「困っている状況・程度」に応じて「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための制度です。
自分の力で元の生活に戻れるように手伝うことが目的で設立されています。
憲法第25条を具体化したもの
日本国憲法第25条の「生存権」は学校の授業で聞いて覚えている人も多いでしょう。
以下の条文を見て下さい。
第二十五条すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
引用元:e-GOV|日本国憲法第二十五条
生活保護は、この25条の理念(生存権の保障)を具体化したものです。
生活に困窮する全ての国民に、最低限度の生活を保障しています。
厚生労働大臣がその時の社会的経済事情に合わせて定める「最低生活費」が生活保護の支給額になります。
年齢や家族構成、健康状態、世帯ごとに計算された最低生活費をその世帯の全ての収入と比べて支給される保護費が決まります。
毎年4月には生活保護基準とともに、年齢に応じた金額の改訂が行われる場合もあります。
生活保護の手続きの流れ
生活保護の手続きの流れは「事前の相談→保護の申請→保護費の支給」の流れで進みます。
生活保護の相談や申請をする窓口は居住地域の福祉事務所ですが、相談や申請の窓口が住居地に福祉事務所が設置していない町村においては町村役場での手続きも可能です。
生活保護の申請が受理されると「実地調査」「資産調査(預貯金・保険・不動産)」「扶養義務者による不要可否の調査」「就労の可能性の調査」などが実施されます。
保護費の支給が決定されると、最低生活費から全ての収入を差し引いた不足分が支給されます。
生活保護の扶助は8種類
ひとくちに生活保護といっても、受け取れる扶助は1つではありません。
以下の8種類が状況に応じて給付されます。
- 生活扶助
- 住宅扶助
- 教育扶助
- 介護扶助
- 医療扶助
- 出産扶助
- 生業扶助
- 葬祭扶助
生活扶助
被保護者の日常生活で必須になる需要を満たすための扶助です。いわゆる「衣食住」のうち、衣と食を担当しています。
地域や年齢によって異なる「基準生活費」のほか、「加算」「入院患者日用品費」「一時扶助」などがあります。
基準生活費
特別な事情は考慮せず、年齢や世帯の人数や居住地などの要件によって定められる生活費の基準額のことです。
個人を単位に計上される第1類と世帯を単位に計上される第2類の合計が基準生活費になります。地域差や年齢の違いで支給額は異なるため、具体的な金額は福祉事務所に確認しましょう。
加算
妊産婦加算、母子加算、障がい者加算、在宅患者加算など世帯の状況に応じて認められるものです。
全て合わせると8種類の加算があります。
- 妊産婦加算
- 母子加算
- 障がい者加算
- 介護施設入居者加算
- 在宅患者加算
- 放射線障がい者加算
- 児童養育加算
- 介護保険料加算
一時扶助
特に必要と認められる場合に支給される扶助です。被服費や家具什器費などが該当します。
基準生活費、加算、一時扶助の金額を合計したものが「最低生活費」です。計算方法の詳細が知りたい場合はこちらの記事も参考にしてください。
教育扶助
児童が義務教育を受ける時資金をサポートしてくれる扶助です。
教育扶助基準額、教材代、学校給食費、通学のための交通費などに分かれます。
そのほか「臨時的一般生活費」として入学準備金が支給されることがあります。義務教育である小学校や中学校の入学費用を扶助するものです。
金額は千差万別ですから、ケースワーカーに相談しましょう。
住宅扶助
家賃や地代など、住宅の維持費を支払う必要がある時の扶助です。
原則として居住できる賃貸アパートは、この住宅扶助の範囲に収まる家賃の住宅を選ぶ必要があります。
持ち家の場合は家賃は必要ないですが、改修費用が必要になることがあります。そんな時は、住宅扶助からの給付を受けることが可能です。
転居する場合も敷金・礼金などが支給されます。
なお、至急される金額は居住地の「級地」によって異なります。
級地制度の目的
生活保護法第8条第2項に基づき、各地域における生活様式や物価差などによる生活水準の差を踏まえ、最低限度の生活を保障する観点から、生活保護基準に地域差を設けているもの
例えば東京都23区では1人世帯40,900~53,700円、2人世帯49,000~64,000円といった具合です。
地方になると、上記の金額から1~2割程度少ない金額が基準額とされることもあります。
住宅扶助として受給できないもの
住宅扶助で支給されるのは家賃のみであり、共益費や水道代などは対象外です。
例えば住宅扶助費の上限が50,000円の地域で家賃が48,000円、共益費が6,000円としましょう。支給されるのは家賃の48,000円のみとなります。
住宅扶助の範囲内での生活が原則ですから、はみ出た家賃や共益費は自分の生活扶助から支払うことになるのです。
とはいえ、あまりにも高額な家賃では「生活保護を受けるという妥当性」が問われることになります。家賃補助を受けながら高級なマンション・アパートに住むことは許されないということです。
あまりにも相場とかけ離れた家賃が設定された物件の場合、転居の指導を受ける可能性もあります。
医療扶助
けがや病気で治療を必要とする時に支給される扶助です。ほかの扶助のような金銭給付ではなく、医療券による治療の現物給付になるのが原則です。
指定医療機関で診療を受ける際の薬剤、施術費用、移送費などが支給の対象になります。
介護扶助
介護サービスを受けるための扶助です。
介護保険の被保険者で、生活保護を受給している人の自己負担分(介護費用の1割)は、介護扶助として支給されます。
65歳位以上の人(第1号被保険者)と40歳以上65歳未満の医療保険加入者(第2号被保険者)は、生活保護を受けていたとしても介護保険の対象です。
なお、介護保険の被保険者以外の人(年齢が40歳未満の人など)に対しては、介護扶助で10割全額が給付されます。
出産扶助
出産をする時に給付される扶助です。
ただし、病院での出産では児童福祉法が定める「入院助産制度」が優先されるため、生活保護法の出産扶助が適用されるのは「自宅での出産」「指定助産施設以外での出産」に限られます。
生業扶助
就労に必要な資金や機材などを購入するための扶助です。そのほか、技能を習得するためにスクールに通う費用も給付されます。
かかった実費の内、一定範囲が給付されます。
葬祭扶助
葬儀を行う時費用を自治体が支給する扶助です。
遺族も経済的に困窮していて葬儀の費用を出せない場合や、遺族以外の人が葬儀を手配する時に利用できます。
支給される金額は、最低限の葬儀を行うだけの費用です。直葬と呼ばれる、僧侶による読経なしで火葬だけのお別れになるのが普通です。
生活保護の利用の要件
世帯収入が最低生活費より少ない
生活保護を受給するための絶対条件は、「申込者の世帯収入を全て合計して居住地の最低生活費を下回ること」です。
世帯収入が居住地の最低生活費よりも少ないと命の危機に瀕する可能性があるため、生活保護の申請が認められます。
仮に現在働いていたとしても、毎月の給料が最低生活費よりも少ないことがあるかもしれません。その場合は最低生活費から収入を差し引いた不足額分の支給を受けることができます。最低生活費が10万円でアルバイト収入が月6万円ある場合、4万円の保護費が給付されます。
なお、収入に換算されるのは働いて得た賃金だけではありません。
年金や生命保険の保険金、クルマや住宅の売却費用、失業保険などの公的な手当てや退職金、仕送りなど自分や家族が受け取るあらゆる収入がカウントされます。
資産などを活用しても生活できない
生活保護を受ける場合、原則として使用していない土地や住宅、貴金属などのぜいたく品は売却して生活費に充てる必要があります。
- 使用していない土地・田畑・住宅
- 別荘
- 2台目以降のスマートフォン・タブレット
- クレジットカード
- 株式等の有価証券
終身保険や養老保険など解約して解約返戻金を受け取れる貯蓄性の高い保険についても、原則として解約を求められます。
働きたくても働けない
生活保護を受ける前に、能力が許す限り働くのが前提です。しかし、病気やけがによって働けない人もいるでしょう。
働けないと収入が最低生活費を下回り、経済的に困窮しやすくなります。
このような事情であれば、生活保護を申請することが可能です。
ただし病気やケガが理由で働けないことを証明する必要があるため、相談や申請の際に医師が発行した診断書や障がい者手帳を持参しなければいけません。
特に精神疾患(うつ病など)によって働けない場合は、見た目だけではケースワーカーは判断できません。
必ず医師の診断書を持っていくようにしましょう。
他の公的制度を使っても最低生活費に届かない
年金などの公的な制度でお金を受け取ることができる人は、原則として生活保護よりもそちらを優先して受け取る必要があります。
障害等級に該当するなどの条件を満たした場合、障害基礎年金や厚生年金を受け取ることが可能です。
年金を受け取っても最低生活費に満たない場合、最低生活費との差額を受け取ることができます。
生活保護の相談先は3つ
ここまで8種類の扶助について解説しました。文面だけではよく分からない人もいるでしょう。制度について分からない場合、思い切って問い合わせてみましょう。
主な相談先は以下の機関です。
市町村の福祉事務所
生活保護の申請窓口は市区町村の福祉事務所ですが、申請だけでなくケースワーカーに生活保護制度の利用について相談することも可能です。
生活困窮者自立支援の窓口
2015年に生活困窮者自立支援法が制定されたあと、福祉事務所がある市町村には生活に困窮する人のために自立相談支援の窓口が設置されています。
生活困窮者自立支援は生活保護の手前にできた、もう1つのセーフティーネットです。働く意思がある人を対象に、一時的に支援して自立ある生活を支援します。
生活保護はメリットばかりではなく「ぜいたく品を持てない」「ケースワーカーの指示に従う必要がある」などのデメリットもある制度です。
生活保護を受けずに立ち直れるなら、それに越したことはないでしょう。
生活保護の窓口とは違いますが、相談者が生活保護の要件を満たしていると判断された場合には福祉事務所に連絡してもらうこともできます。
弁護士などの専門家
本人だけでは生活保護の申請が難しいことが考えられます。例えば「申請に行ったのに受理してもらえず追い返されてしまう」といったケースです。
本来は生活保護は申請があった場合は拒否することができません。しかし、中には拒否する担当者がいるかもしれません。
その場合、生活保護の支援を行う弁護士や司法書士に相談する方法があります。日本弁護士連合会では生活保護の受給を自分で申請するのが難しい人に「法律援助事業」を行っています。
法テラスでも相談可能
日本司法支援センター(通称「法テラス」)が行う民事法律扶助業務では、経済的な余裕がない人が無料で法律相談ができます。
弁護士や司法書士の費用の立て替えることで、生活困窮者でも専門家に依頼できるようにサポートしてもらえます。
申請の流れは以下の通りです。
- 無料法律相談
- 審査
- 援助開始決定
- 事件終了
援助開始の決定がなされると、弁護士・司法書士の費用(着手金・実費)を法テラスが立て替え、立て替えてもらえた費用は毎月分割での支払いで返済することになります。
生活保護の扶助は8種類|それぞれの特徴と保護の要件 まとめ
8つの扶助のどれが適用されるのか、いくらまで適用されるのかは家庭ごとに異なります。
申請前にケースワーカーに相談し、おおまかな支給金額を確認しておきましょう。