個人事業主の消費税が払えない!免除・減免の制度はある?
法人だけでなく、一定以上の課税売上を得た個人事業主であっても「消費税」を税務署に納める必要があります。
しかし、納税は課税事業者になってから2年先の話です。
その時に事業が赤字などの理由で支払いが難しいパターンもあるでしょう。
その時には、どのような手段が残されているのでしょうか?
今回は、消費税を納税できない場合の手続きについて解説します。
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そもそも「消費税」とは
消費税とは、国や自治体に直接納めない「間接税」の1つです。
消費税を払うのはモノやサービスを利用する消費者であり、納めるのは税金を預かった事業者というのが直接税と異なります。
例えば、スーパーなどの店舗のレジで預かった消費税は、スーパーを経営する会社によって後日まとめて税務署に納められます。
ほとんど全ての国内における商品の販売や、サービスの提供及び保税地域から引き取られる外国の貨物が課税対象です。
取り引きの段階ごとに標準税率は10%、軽減税率が適用される場合は8%とされています。
消費税の計算方法
消費税の計算の詳細は複雑のため、ここでは消費税を算出する時の2つの考え方を解説します。
- 原則課税方式
- 簡易課税方式
原則課税方式
原則課税方式は、年間を通じて預かった消費税から、仕入れなどで支払った消費税を差し引いた金額が納税額になる方式です。
以下の計算式を用いて納税額を算出します。
原則課税方式の消費税納付額=(課税売上高×10%または8%)-(課税仕入高×10%または8%)
簡易課税方式
基準となる課税売上が5,000万円以下の時に選択できる計算方法です。
原則課税取引の細かな取引は中小事業者や個人事業者の負担になってしまいます。
対する簡易課税は「仕入れの際に支払った消費税」を計算しなくて済む方式で、「みなし仕入れ率」を用いて計算が可能です。
簡易課税方式の消費税納付額=(課税売上高×10%または8%)-(課税売上高×10%または8%×みなし仕入率)
みなし仕入れ率は、以下の6つの事業区分で仕入れ率が異なります。
事業区分 | みなし仕入率 | 該当する事業 |
---|---|---|
第一種事業 | 90% | 卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)をいいます。 |
第二種事業 | 80% | 小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第一種事業以外のもの)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)をいいます。 |
第三種事業 | 70% | 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業をいい、第一種事業、第二種事業に該当するもの及び加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます。 |
第四種事業 | 60% | 第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業及び第六種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです。 なお、第三種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第四種事業となります。 |
第五種事業 | 50% | 運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)をいい、第一種事業から第三種事業までの事業に該当する事業を除きます。 |
第六種事業 | 40% | 不動産業 |
消費税の納税義務がある人・ない人
課税事業者
課税事業者は、消費税を納める義務がある事業者です。
以下のどちらかに当てはまる場合は課税事業者になり、消費税を納める義務が発生します。
- 基準期間の課税売上高1,000万円超
- 特定期間の課税売上高1,000万円超
該当する事業者は課税事業者になるため、税務署に「消費税課税事業者届書」を提出します。
免税事業者
基準期間、特定期間のいずれも課税売上高1,000万円を超えている場合は免税事業者になります。
また、新たに設立された事業者には基準期間が存在しないため、設立1期目・2期目は自動的に免税事業者になります。
消費税を払えない場合の流れ
消費税の納付が必要になるのは課税事業者になった2年後のため、その時の事業の状態次第で納付できない可能性があります。
もし納付できない場合、どのような流れで手続きが進むのでしょうか。以下の流れの詳細を解説します。
- 督促状を受け取る
- 財産が差押えられる
- 換価が行われる
- 場合によって配当を受け取る
督促状
一般的に、納付期限から50日以内に「督促状」が届きます。
納付催告として行われるもので、差し押さえの前提要件です。
督促状が届くこの段階で税務署に相談すれば分割での納付が認められる可能性があります。
しかしあくまでも分割納付が認められただけですから、差押えが回避されたわけではありません。差し押さえになる前に、できるだけ早く完納するしかありません。
差押え
督促状を受け取ってからも一定期間全額納付できない場合、財産の差し押さえが行われます。
差押えによって財産の権利の移転を禁止され、税務署が強制的に換価できる状態になってしまうことを覚えておきましょう。
換価
差し押さえた財産を現金に換える手続きのことです。
現金以外の財産(クルマ・株など)は差し押さえられただけでは使えないため、現金に換えられてしまうのです。
この現金が税金の滞納への支払いに充てられます。
配当
滞納している税金に換価したお金が使われた後に代金が残った場合「配当」として滞納者に支払われます。
お金に換わってしまった現金を受け取って一連の流れは終わります。
何が差し押さえられる?
滞納した場合に真っ先に差し押さえされるものは現金・株・債券などの金融資産です。
換金性が高いため、優先して差し押さえられます。
手元の財産以外に、勤め先の給与も差し押さえられる可能性がある点に注意が必要です。
ただし、生活に必要な最低限度の財産は差し押さえが禁止されています。
給与などを差し押さえられたとしても、最低生活費にあたる金額は差し押さえられずに残ることになります。
どうしても払えない場合はどうする?
納付は原則として3月31日まで
原則として、消費税の納付期限は3月31日までです。
確定申告が3月15日であるため勘違いしがちですが、同じではないことを覚えておきましょう。
令和2年に関しては新型コロナウイルス感染の影響もあり、感染拡大を防ぐために所得税の申告期限が1ヶ月間後ろ倒しになった経緯があります。
そのとき、消費税も4月16日まで後ろ倒しになりました。
今後も新型コロナウイルスを始めとした国難の時期には、納税期限が変わる可能性があります。
原則は3月31日ですが、最新の納付期限は常に確認しましょう。
消費税が払えない場合に起こるリスク
消費税は、納付期限を超えても納付できないと「延滞税」が科されます。
納付期限から2ヶ月を経過するまでは年7.3%ですが、2ヶ月以降は年14.6%と2倍になることに注意が必要です。
延滞税はカードローン等の支払いを遅らせた場合の遅延損害金のようなもので、場合によって本来の消費税を上回ることも考えられます。
忘れなどではなく、故意の支払い逃れを疑われた場合は「重加算税」の対象になる可能性がある点も併せて注意が必要です。
脱税として財産の差し押さえになることも考えられます。
払えないことが分かったら、できるだけ早く税理士などの専門家に相談しましょう。
差し押さえる財産がなかった場合はどうなる?
差し押さえる財産がない場合や、差し押さえによって生活が著しく圧迫される場合、差し押さえは免除されることがあるのでしょうか?
原則として、免除されることはないと覚えておきましょう。
10円~100円程度の金額しか入っていない口座でも、差し押さえられる可能性はあります。
徹底して厳正な処分を実行することは十分に考えられます。
このような事態になる前に、消費税を納める方法を考える必要があるでしょう。
休業等の理由次第では納税猶予もある
国税は、要件を満たすことで納税期限を延長できる「納税猶予」の仕組みが存在します。
2020年は新型コロナウイルスの影響もあり、申請があった場合は柔軟に対応するように国税庁が各国税局に通達しています。
新型コロナの影響で納税が困難な人の場合、納税猶予になるための条件は以下のとおりです。
令和2年2月1日から令和3年2月1日に納期限が到来する国税については、
- ① 新型コロナウイルス感染症の影響により、
令和2年2月以降の任意の期間(1か月以上)において、事業等の収入が前年同期と比較して、おおむね20%以上減少しており、- ② 国税を一時に納付することが困難な場合、
所轄の税務署に申請すれば、納期限から1年間、納税の猶予(特例猶予)が認められます(新型コロナ税特法第3条)。
特例猶予が認められると、猶予期間中の延滞税は全額免除されます。また、申請に当たり、担保の提供は不要です。
条件が複雑であり、納税猶予にあたるか分からないこともあるでしょう。その時は国税局猶予相談センターに相談してみましょう。
消費税が発生しない取引も覚えておく
消費税は国内のほとんどの商品・サービスの利用で納める税金ですが、なかには取引の性質などの観点から消費税が課されない取引もあります。
消費税が課されない以下の取り引きを紹介します。
- 不課税取引
- 非課税取引
- 免税取引
不課税取引
取引きの性質から、そもそも消費税の対象にならない取引です。
消費税が課税される以下の4つの条件に当てはまらないものが不課税取引とされます。
- 国内において行われる取引
- 事業者が事業として行う取引
- 対価を得て行う取引
- 資産の譲渡、貸付け又は役務の提供
非課税取引
消費税を課税するのが好ましくない取引や、社会的政策の配慮から消費税を課税しない取引のことです。
具体的には以下のような取引が「非課税取引」に分類されます。
- 土地の譲渡・貸付
- 有価証券の譲渡
- 小切手・手形などの譲渡
- 利子・保証料
- 郵便切手類、印紙、商品券などの譲渡
- 住民票などの発行手数料
- 外国為替業務
- 社会保険料の給付
- 介護サービスの提供
- 社会福祉事業の提供
- 助産
- 埋葬料、火葬料
- 学校教育
- 教科用図書の譲渡
- 住宅の貸付け
免税取引
輸出品のように、実際の消費地が海外であるような取引です。
いわゆる空港や街中にある「免税店」がこれにあたります。
これは消費される場所で消費税を課税するという考え方からきています。
日本で消費されないことが明らかな取引の場合、消費税は課税されません。
消費税の注意ポイント
納めるのは年間売上が1,000万円を超えた2年後
消費税の課税対象になる事業者は、年間課税売上1,000万円を超えた事業者ですが、その年にいきなり納付するわけではありません。
納税は課税売上が1,000万円を突破してから「2年後」です。基準期間について個人事業主では前々年度の1~12月の課税売上で判断します。
令和2年の1~12月に1,200万円の売り上げがあった場合、令和4年1月から課税事業者として消費税の納税義務が発生します。一方、令和2年と3年は免税事業者の扱いです。
免税事業者でも消費税を受け取れる
免税事業者は消費税の納税をしておらず「消費税を請求できないのでは?」と考える人は多いです。
結論をいうと、免税事業者でも消費税を請求することができます。
免税事業者が消費税を請求してはいけない決まりはありません。また、消費税を請求しないと仕入れ時の消費税は自分で支払うことになります。
免税事業者であっても、堂々と消費税を請求して大丈夫です。確実に受け取って、「もし課税事業者になった時」のための出費に備えましょう。
個人事業主の消費税が払えない!免除・減免の制度はある?まとめ
今回は、消費税を払えない場合の対処法と、万が一払えない場合の流れについて解説しました。
もし支払えない場合は督促状が送られ、最終的には財産が差し押さえられてしまいます。新型コロナウイルスが原因で収入が減少したなどの理由があれば納税猶予の特例などが適用されるため、どうしても払えない場合は国税局に相談を持ち掛けましょう。
課税事業者になったら将来の支払いのために、消費税分の金額は確保しておくことが望ましいです。