年金保険料を払えないとどうなる?免除・納付猶予の仕組みとは?
年金には国民年金と厚生年金がありますが、給与天引きではない国民年金保険料に関しては家計次第で納付できない可能性があります。
納付できない場合は将来の受け取り額が減ってしまうだけでなく、最悪の場合は資産の差し押さえを受ける可能性すらあります。
そうならないためには、どのような対応策があるのでしょうか?
今回は年金を払えない場合の国の対応と、利用できる制度について解説します。
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年金とは
年金制度は1~3階部分に分かれています。
1階部分にあたるのが日本に住む20~60歳が加入する義務がある国民年金で、自営業者やフリーランス、無職の人が加入します。全ての基礎になる年金であり、給付額は納付した月数に比例します。
2階部分は厚生年金です。会社員や公務員などが加入し、「第2号被保険者」とよばれます。支給額は加入月数だけでなく、現役時代にどれだけ収入があったかによっても左右されます。
最後の3階部分は私的年金であり、個人型確定拠出年金(iDeCo)などが該当します。
公的年金の保険料は納める義務がある
日本に住む20歳以上の人であれば必ず年金に加入する義務があるため、数ある公的制度のなかでも馴染みが深い制度でしょう。
ひとくちに年金といっても、国が用意する公的年金と自分や会社で用意する私的年金の2種類があります。
私的年金はあくまで上乗せですから、やるかどうかは本人の意思次第です。
一方、国民年金は日本に住む20歳~60歳未満のすべての方が対象になります。
保険料は間違いなく納付しなければならず、単に納めたくないという理由で納付を拒否することは許されません。
現在の保険料の未納率
加入と納付の義務がある年金ですが、その保険料は全員が全額を納めているわけではありません。
中には、さまざまな理由で未納になっている人もいます。
といっても、厚生年金は給料からの天引きで納めるため、会社員である以上は未納に陥る心配はないでしょう。
一方、国民年金は自営業者や学生、無職の人が自分の意思で納める必要があります。
収入が少なかったり納付を忘てしまったりといった理由で未納が発生する可能性は否定できません。
厚生労働省が発表した「令和2年1月末現在 国民年金保険料の月次納付率」によれば、令和2年1月末の最終的な納付率は75.2%でした。じつに約25%が未納ということです。
将来的に年金を受け取るためには、保険料を10年以上納付する必要があります。
未納期間は金額の計算の対象外ですから、未納期間が長いほど将来的に受け取れる金額は少なくなります。
保険料を納めない場合の流れ
年金事務所などに相談をしないまま未納をした場合、どのような対応が行われるのでしょうか。
最初は納付の督励という形ですが、徐々に文言が厳しくなっていき、最後は差し押さえまで進むことになります。
最終的に財産が差し押さえされるまでの流れを解説します。
- 納付督励
- 最終催告
- 督促
- 差し押さえ
納付督励
保険料の未納が発生した場合、封書やはがきで保険料納付の案内(納付督励)が送られる、電話がかかってくる、
あるいは自宅に訪問される、のいずれかの方法で保険料の納付が促されます。
この通知を受けても年金が納付されない場合は、特別催告状という書類に切り替わります。
最終催告
特別催告状を送付しても保険料が納付されない場合、今度は最終催告状が送られます。
最終催告状には未納分の納付書が同封されており、定められた期限内に納付しなければ、財産が差し押さえられるという強い文言も記載されています。
督促
最終催告状が届いてもさらに未納を続ける場合、次に届くのが督促状です。
最終催告状と同じく、期限内に未納の保険料を納められなければ財産を差し押さえる旨が記載されています。
さらに延滞金の発生、配偶者の財産まで差し押さえる可能性といった踏み込んだ内容が記載されます。
差し押さえ
督促状も無視していると、差し押さえ予告状が届きます。
差し押さえが予告された期日を過ぎれば、強制的に差し押さえるための「対象者の財政調査」が行われます。
ここからは年金機構の職員が未納者の口座、有価証券、自動車などの財産を調査し、それらを差し押さえる手続きに進むのです。
それでも未納を続けると、国が自動的に保険料を徴収に動きます。
この段階になれば延滞金が課されることになり、未納の保険料を分割で払えなくなる(一括での納付を請求される)なるため注意が必要です。
最終的に差し押さえが実施されれば、強制的に徴収されます。
保険料免除・納付猶予制度とは
保険料を払えないとなった場合、最終的に差し押さえまで進んでしまうのはすでに紹介した通りです。
ここまでの事態になるのは何としても避けたいのではないでしょうか。
そこで年金には、納付が難しい時に利用できる2つの制度が用意されています。それぞれの特徴を見ていきましょう。
保険料免除制度
本人・世帯主・配偶者の前年所得が一定額以下である場合、または失業した場合などの条件を満たす場合、保険料の納付免除を受けることが可能です。
全額免除・4分の3免除・半額・4分の1免除の4種類の免除のうち、いずれかの免除内容が選定されます。
免除制度が適用される所得基準は以下のとおりです。
- 全額免除
前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること
(扶養親族等の数+1)×35万円+22万円 - 4分の3免除
前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること
78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 - 半額免除
前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること
118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 - 4分の1免除
前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること
158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
納付猶予制度
20歳から50歳未満で本人・配偶者の前年所得が一定額以下の場合に申請できる制度です。
本人が申請して承認されれば、保険料の納付が猶予されます。
所得の要件は保険料免除のうち全額免除と同じです。
学生納付特例制度
卒業まで1年以上かかる学校に在学している学生限定ではありますが、本人が申請を行うことで在学中の保険料の納付が猶予される制度です。
大学生だけでなく高校生や大学院、夜間学校の生徒、通信学校も特例の対象に含まれます。
免除・納付猶予手続きのメリット
免除や納付猶予の特例を受けることで、将来の年金受取に関するさまざまなメリットを享受することができます。
免除・納付猶予それぞれのメリットを見ていきましょう。
免除のメリット
国民年金保険料の未納期間が発生した場合、将来の基礎年金がもらえない、病気やケガによる障害を負った場合に障害基礎年金が受け取れないといったリスクがあります。
未納にせずに免除の手続きをした場合は、免除になっている期間について基礎年金の受給資格期間に加わります。
保険料は10年以上納付しないと年金が受け取れないため、納付期間として加算されるのは重要です。
また、免除を受けることによって、免除の割合に応じて基礎年金を受け取ることもできます。
納税猶予のメリット
納税猶予によって得られるメリットは、期間中の保険料の納付義務がないことです。
納税猶予の期間は基礎年金の受給資格期間にカウントされます。
基礎年金を受け取るためには最低でも10年以上の受給期間が必要であり、その期間に影響は出ないのはメリットといえます。
免除・納税猶予を受ける場合のデメリット
免除・納税猶予を受けることはメリットもありますが、デメリットもあることを知っておきましょう。
免除は所得状況に応じて全額免除・4分の3免除・半額免除・4分の1免除のいずれかを受けることができ、免除の期間は受給資格期間にも含まれます。
ただし、受取額に影響が出るのは避けられません。
本来納付すべき金額を納めているケースと比較すれば、将来受け取れる年金は確実に少なくなります。
納税猶予に至っては、受給資格期間にカウントされるだけで年金額へは一切反映されません。
納税猶予を受けるだけでは、いつまで経っても受け取れる年金額は増えることがないのです。
どうにかして収入を増やし、保険料を納める努力が必要になるでしょう。
免除・猶予制度手続きの申請方法
国民年金保険料の免除・納付猶予制度を利用するためには、以下の書類が必要です。
- 年金手帳又はマイナンバー確認書類
- 本人確認書類(運転免許証・パスポート)
- 国民健康保険料免除・納付猶予申請書
なお、注意点として国民年金は1年度が毎年7月~6月であることです。
申請したい場合は、年度が始まる7月以降に手続きを行うことになります。
免除・納付猶予された期間の年金額
基礎年金(国民年金)の年金額を計算する際、保険料免除・納付猶予の承認を受けた期間がある場合は保険料を全額納付した時と比べて受け取れる金額が低額になります。
免除を受けた場合の詳しい計算式は以下のとおりです。
- 全額免除
平成21年4月分からの保険料の全額が免除された期間については、保険料を全額納付した場合の年金額の1/2- 4分の3免除
平成21年4月分からの保険料の4分の3が免除された期間については、保険料を全額納付した場合の年金額の5/8- 半額免除
平成21年4月分からの保険料の2分の1が免除された期間については、保険料を全額納付した場合の年金額の6/8- 4分の1免除
平成21年4月分からの保険料の4分の1が免除された期間については、保険料を全額納付した場合の年金額の7/8
なお、納付猶予制度の場合は老齢基礎年金や障害基礎年金、遺族基礎年金を受け取るために必要な受給資格期間にカウントされますが、年金の受給額には反映されません。
満額に少しでも近づけるためには、のちほど紹介する追納を受けることが必須です。
新型コロナウイルスの影響を受けた場合に免除を受けることもできる
令和2年5月1日から、新型コロナウイルス感染症の影響で国民年金保険料の納付が困難な人に向けて臨時特例免除申請の手続きが開始されました。
対象になる人は以下のとおりです。
(1)令和2年2月以降に、新型コロナウイルス感染症の影響により収入が減少したこと
(2)令和2年2月以降の所得等の状況から見て、当年中の所得の見込みが、現行の国民年金保険料の免除等に該当する水準になることが見込まれること
年金を払えるようになったら追納を検討する
免除や納付猶予を受けた分は、あとから追納をすることが可能です。
追納することで、基礎年金額を満額に近づけることができるでしょう。
追納ができるのは、追納が承認された月の前10年以内の免除などの期間に限る点に注意が必要です。
免除・納付猶予や学生納付特例を受けた期間のうち、古い順から納付することになります。
ただし、免除や猶予を受けた期間の翌年度から起算して3年度目以降に保険料を追納した場合は、承認を受けた当時の保険料に期間経過に応じた加算額が上乗せされることを知っておきましょう。
1年経過ごとに月々数十円~数百円程度と、上乗せ金額は大きくありませんが、実質的に受け取れる年金が目減りしていきます。
また、基礎年金を受け取れる人は追納できなくなります。
「追納はできるだけ早いうち」が鉄則です。
早いうちに追納すれば、免除等を受けてそのままにするよりも将来の受取額が大きくなり、長生きするほど受取総額に差が出ることになります。
人生100年時代ともいわれる現代、金銭的な余裕があれば必ず追納を検討しましょう。
年金保険料を払えないとどうなる?免除・納付猶予の仕組みとは?まとめ
今回は、年金を払えない場合の国側の対応と、資産を差し押さえられないための対策について解説しました。
保険料が未納だと少しずつ強い表現の書類が届き、最終的には財産の差し押さえが行われます。それを防ぐためには、払えないことが分かった時点でできるだけ早く免除や納付猶予の手続きをすることが必要です。
また、免除・納付猶予を受けても将来の年金の受取額の減額は避けられません。金銭的に余裕ができたら、できるだけ早く追納の手続きを行いましょう。