会社からお金を借りる「従業員貸付制度」の利用方法
急ぎでまとまったお金が必要になったときに「会社からお金を借りることができるかもしれない」と思い浮かべる人は少ないでしょう。
実は会社には社員にお金を貸出する制度があります。
会社によりますが「従業員貸付制度」「社内貸付制度」といった制度が用意されています。
社員規定などに記載されているので、まずは確認してみましょう。
このページの概要
会社からお金借りる方法とは
福利厚生としての貸付制度
すべての会社にあるとは限りませんが、福利厚生として「貸付金制度」と呼ばれるものが用意されていることがあります。
雇用者が金銭的なトラブルや悩みを抱えていては、業務に差し障りがあります。そういった懸念を払拭してしっかり働いてもらうために、用意されたものです。
会社によって制度の内容はまちまちですし、社員によっては退職まで存在さえまったく知らずに過ごすこともあります。
基本的には、会社が労使協定を結んでいて、社内貸付制度の規約を定めた場合に初めて利用できます。
労使協定とは、労働者と雇用者の間で締結される書面上の協定のことです。
そのため、そもそも組合がない会社にはこういった制度がないケースもあります。
基本的には「任意の福利厚生」という位置づけで、社員のための社内サービスです。
会社で働く人の幸福は、仕事をしてその対価を得ることや、健康面を包括する社会保険を持っているだけではカバーしきれません。
生きるために必要になるお金のトラブルを回避して、業務に差し支えがない精神状態を維持するために、会社が貸付制度でサポートをしています。
制度の特徴
会社が提供する貸付制度は、カードローンやフリーローンとはまったく性質が異なるものです。
金利や融資額、借入の条件などの細かい部分は会社によってまちまちです。
大企業や外資系企業では充実した貸付制度を持っているところがありますが、中小では存在すらしていないこともあります。
主に、以下のような特徴があります。
・金利が高くない
・銀行のカードローンよりも低金利
・限度額は数十万円から退職金程度まで借りられる
・資金使途は限られる
・返済は1年から5年程度
貸付制度は給付ではないので,
借入では金利分の利息が発生します。
とはいっても、利息制限法や出資法の範囲内で上限金利が設定されます。
利益を得るための制度ではなく、社員がお金に困らないようにという目的で作られたものであるため、「会社が損しなければ良い」というレベルの金利になっています。
どういうときに利用できるか
「社内貸付制度」「従業員貸付制度」は、社員が金銭トラブルに巻き込まれるのを回避するための制度です。
社員が安心して働けるよう、福利厚生の一環として採り入れられるもので、緊急で必要性の高いときに利用されます。主に利用できるのは以下のような状態のときです。
・病気や事故のせいで発生した入院費用
・身内の不幸によって発生する葬式費用など
・地震や火災、浸水などによる修理や修繕費用
・空き巣や強盗などによって生活資金が不足している
原則として「意図しないところでまとまったお金が必要となり、金銭的な不安から会社での業務に支障をきたす可能性がある場合」に適用されます。
趣味の費用や、ギャンブル、ファッションなどといった費用として借りることはできません。
金利はどれくらい?
社内貸付制度は消費者金融業者や銀行のカードローンなどに比較すると、非常な低金利で提供されます。利益を求めるための貸付ではなく、あくまで福利厚生の一環だからです。
・金融機関と社内貸付制度の金利の比較
社内貸付制度 | 年率2.0%~4.0%程度 |
---|---|
消費者金融 | 年率3.0%~18.0%程度 |
銀行のカードローン | 年率1.5%~14.0%程度 |
この制度は社員の金銭的な不安を取り除くためのものですので、金利なしで貸出しても良いと考えられますが、実際には低金利とはいえ無利子で貸出されることはありません。
というのも、会社が無利息でまとまったお金を社員に渡した場合には、贈与税の対象となってしまうからです。
贈与税は現金など経済的に価値あるものをもらったときに「もらった本人」に税金がかかることになっています。
贈与税がかからない方法でまとまったお金を社員に渡すには、金利を設定しなくてはなりません。
どのくらい借りられる?
社内貸付制度で借りられる金額は会社によってまったく異なります。
会社の風土も影響しており、「退職金程度借りることが可能」というところもあれば、「30万円程度が限度」というところもあります。
主に以下のように定められていることが多い傾向があります。
・自己都合退職金の2倍まで
・1年目は50万円までで、勤続年数が長くなるほど増える
・5年目までは貸付が利用できず、6年目から50万円まで
・給料の2ヶ月分まで
勤続年数が長いほど多くのお金を借りることができる傾向があります。利用枠そのものに勤続年数で制限が付いていることもあります。
また、融資までの期間は2週間から3週間程度のケースが多く、会社の規模が大きくなるほど融資までの期間が延びます。
中小企業のなかには、即日で借りられることもあります。大手になると融資までに1ヶ月以上かかるということもあります。融資までの期間は会社の規定に従うので、良く確認しておきましょう。
会社からお金を借りる条件と申込方法
ある程度の勤続年数があること
会社からお金を借りることができるのは、一般的にはある程度の年数を勤めている社員です。
入社してすぐに借りることができるわけではありません。
生活費がなくなる恐れがあるとか、緊急でまとまったお金が必要があるといったトラブルに見舞われた人が利用できる福利厚生です。ただ、社員なら誰でも利用できることはなく、社内での審査に通過する必要があります。
この制度は、社内貢献度が高い正社員向けで、契約社員や勤続年数が短い社員への融資は困難でしょう。いつ退職するか分からないというステータスの社員への貸出は厳しいと考えたほうがいいでしょう。
申込方法
社内貸付制度の申込方法は各社で若干の違いはありますが、おおむね以下のようなものです。
1.上司や人事部などに相談のうえ、申込用紙をもらう。
2.必要書類を添えて提出する。
3.社内で審査が実施される。
4.口座に会社から貸付金が振り込まれる。
上司を通して話しても良いですし、直接人事部に相談しても良いでしょう。
緊急で借りなければならない事態のときに社内貸付制度を利用することは、恥ずかしいことではありません。
申込用紙と必要書類の提出が完了すれば社内で審査が行われますが、これはあくまで社内での審査で、消費者金融業者や銀行のカードローンのように「個人情報機関に照会して信用情報を確認する」といったことはしません。
審査に通過すれば指定した口座にお金が振り込まれますが、多くの場合で給与振込口座になります。融資までには、早くて1週間程度、平均的には2週間くらいかかります。
必要書類は?
1.会社指定の書類
社内貸付制度に申し込む場合には、その会社が指定する「申込書」「契約書」と「必要経費の見積書または領収書」が必要です。
決まった書式があり、それに従って記入して提出します。
上司や人事部に「貸付制度を利用したい」と申し出て了承を得られたら、必要書類についての説明があります。
2.金銭消費貸借契約書
会社指定の申込書と併せて「金銭消費貸借契約書」という書類を提出しなければならないこともあります。
これは、「将来の返済を約束し、金銭を消費するために借入する」という契約のことで、会社に対して「返済を前提とした契約」を結ぶという意味合いがあります。
社内貸付制度は福利厚生の一環として用意されているものですが、だからといって「催促されない」「出世払いで良い」などの対応を取ると、社員が一方的に利益を得ることになり、贈与税の対象となってしまう恐れがあります。
そのため、「必ず返済します」と約束したことを証明する書類が必要となります。
返済方法は給与天引き
社内貸付制度を利用したお金を借りた場合、返済方法は通常は給料天引きとなります。
会社によっては「借りた本人が口座振込をする」「ボーナスのみの天引きとする」といったケースもあります。返済方法が給料天引きのときには、毎月決まった金額が差し引かれることになります。
あくまでも福利厚生の一環なので、返済額は「生活に支障をきたさない程度の金額」になります。
1万円から2万円といったところでしょう。
返済期間を設けて、その期間内で返済できる金額とするケースもあります。
たとえば金利が年率2%のとき、30万円を借りたら毎月6000円返済すれば4年5ヶ月で完済できます。返済期間を5年とすれば、このような返済パターンになることもあるでしょう。
返済期間は12回払いから24回払いが多く、1年から最長で5年が設定されます。返済期間が延びるほど金利による利息がかかってしまうので注意が必要です。
会社からお金を借りるメリット
金利が低い
社内貸付制度のメリットは金利が低いという点です。
目的が制限されていたり、融資までに時間がかかったりといったデメリットはありますが、それを考えても低金利というのは利用する側としてはありがたいことでしょう。
・社内貸付制度とその他のローンの比較
種類 | 金利 | 限度額 |
---|---|---|
社内貸付制度 | 1%~6% | 会社によるが50万円程度 |
銀行のローン | 4%程度~15%程度 | 300万円~800万円 |
消費者金融業者 | 3%~18% | 最大800万円(初回は最大50万円程度) |
圧倒的に社内貸付制度のほうが金利が低いことが分かります。金利は高くても6%程度で、1%以下という会社もあります。
・20万円借入して12回払いで返済するときの総返済額
社内貸付制度(金利2%) | 20万2039円 |
銀行のカードローン(金利15%) | 21万5773円 |
消費者金融業者(金利18%) | 21万6336円 |
消費者金融業者や銀行のカードローンは、社内貸付制度よりも審査が早いですが、金利面では高めなので最終的に支払う金額に大きな差額が出てきます。
審査に通りやすい
社内貸付制度や従業員貸付制度は、本人や家族の出産、病気、怪我、突然の不幸といった緊急事態に対応するための制度です。
そのため、会社に制度があれば、条件さえ満たせば審査には通りやすいというメリットがあります。
この制度を用意している会社は、従業員が金銭的な不安を抱えて仕事をすることは会社にとっても損失であると考えているということです。労使協定でそのような規定が設けられているということは、従業員が精神的に圧迫されない状態で、しっかり働いてもらおうという考えを持っていると判断できます。
社員が困っているときには、力になるという方針を持っているため、「家族が病気になって治療費が必要」などといった場合に頼れます。
また、このような制度がない会社であっても、「給料の前借り」は可能です。従業員本人や扶養親族などに緊急性の高い事態が発生したときに、すでに働いた分の賃金を前借りすることが可能です。
総量規制が適用されない
社内貸付制度は、あくまで会社の中での金銭の貸し借りです。
銀行や消費者金融業者などといった金融機関は無関係の貸借関係となります。
そのため、消費者金融業者で借りるときに問題となる「総量規制」が適用されません。
金融機関なら、情報を共有するための「個人情報機関」に情報を照会できますが、ほとんどの会社はそのような個人情報にはアクセスできないので、借入を申し込んだ本人にどの程度の借金があるのかは把握できません。
そのため、たとえ消費者金融業者や銀行から年収の3分の1以上の借入があったとしても、それは社内審査で問題とはなりません。
とはいえ、もし多額の借金を抱えているなら社内貸付制度を利用してお金を借りたときに返済で困る可能性は高いので、充分に注意しましょう。
信用情報に問題があっても借入できる
社内貸付制度に総量規制が適用されないのは、ほとんどの会社の社内貸付制度は個人情報機関と無関係だからです。
そのため、信用情報に問題のある人でも借入可能です。
通常、過去5年以内にクレジットカードやローンの支払いを2ヶ月以上延滞した人は、金融機関の利用は困難です。
消費者金融業者や銀行のカードローンの審査では、このような延滞があった人を「ブラックリストに載っている人」として審査では否決します。
ブラック状態の人がお金を借りようとするなら、「街金」と呼ばれる中小の業者に頼るしかありませんが、社内貸付制度であればブラックの人でも社内の審査に通りさえすればお金を借りられます。
個人信用情報は金融機関にだけ提供されているもので、違う業種の会社は知ることができません。
そのため、もしブラックリストに載っている人でも、社内貸付制度は利用可能です。
会社からお金を借りるデメリット
資金使途が限られる
社内貸付制度のデメリットは、資金使途が非常に限られる点にあります。
「本人または家族の病気や怪我」「身内の不幸」「地震や火災、盗難」などによって生活資金に困っているという状態でないと利用できません。
単に生活費に困っているという状態では利用不能でしょう。
「自分が意図しないところでお金が必要となって、金銭的な不安から業務に差し障りができる可能性がある」という緊急性の高い状態でないと利用することはできません。
利用目的は重視される点で、用途によっては会社から了承を得ることができません。
「ギャンブルで負けて生活が苦しくなった」などの場合には、自分の行動に問題があるだけなので利用は不可能です。
「生活に余裕を持ちたい」などの理由で利用させる会社もないでしょう。ただ、会社によっては「結婚式の費用」や「自家用車の購入」を理由に利用できることがあります。
手間がかかる
1.利用条件が厳しいことがある
社内貸付制度はいざというときに頼れる制度ですが、多くの場合で勤続年数などの利用制限が設けられています。
「5年目までは利用できない」「病気の程度が軽いときは利用不可」など、利用するにあたって様々な障壁があることがあります。
特に勤続年数による制限は厳しいことがあるので良く確認しておきましょう。
2.連帯保証人が必要なことがある
この貸付制度では「連帯保証人」が必要になることがあります。
「給料と同額の借入なら連帯保証人は不要だが、給料の1ヶ月以上の借入額のときには必要」などと言ったケースがあります。連帯保証人は家族や友人といった人に依頼しなければならないので、困難を感じることもあるでしょう。
3.手続きが多い
制度の利用には手間がかかります。
まずは上司や人事部に相談して、お金を借りたい理由を説明して許可を得る必要があります。
その後も、申込用紙を取り寄せたり、連帯保証人や書類を準備して社内審査に通過する必要があります。時間も手間もかかるので、すぐに借りたいというケースには不向きです。
社内の人に知られる可能性がある
借金の事実を他人に知られるのは嫌なものです。
通常、消費者金融業者や銀行のカードローンでは「借入の事実は本人以外には知られてはならない」という原則に基づいていますが、社内貸付制度の場合には、なかなかそういうわけにはいきません。
上司に相談した結果、会社内で情報が出回ってしまう恐れもあります。
噂を広げてしまう人にも問題はあるとはいえ、いったん社内で広がった情報は、なかったことにはできません。
人間関係に問題が起きるリスクもあります。
最初から人事部に相談できるなら、そのほうが内密に事を進めてもらえるので、上司ではなく人事部に申し出てみましょう。
転職時には全額返済が必要
転職を考えているときに、社内貸付制度を利用するのは危険でしょう。
会社によっては退職までに全額返済義務が課せられていることがあります。
少なくとも返済期限までに退社する予定はないと思っていても、実際には今後のキャリアがどうなるか分かりません。
この規定は会社によって変わってきます。
申し込むときには契約書を必ず確認しましょう。
たとえば、「5年を掛けて返済している最中に2年目で退職することになったら3年分の返済額全額を用意する必要がある」としたら、もし有利な転職のチャンスがあっても、棒に振ってしまいます。
融通を利かせてくれる会社もありますが、決して多くはありません。
会社からお金借りる従業員貸付制度の利用方法 まとめ
会社によっては、社内貸付制度・従業員貸付制度などの制度を設けているところがあります。
緊急性が高いものに限られますが、非常な低金利で借りることが可能です。必要な場合には、上司や人事部に相談してみましょう。