住宅ローンが支払えないとどうなる?万が一の流れと対処法を解説
東日本大震災や新型コロナウイルスの蔓延など、日本では会社員の雇用を直撃するような出来事が何度も起こっています。
自分の能力とは無関係に、会社の業績次第では解雇や減給によって住宅ローンが支払えない状況に陥ることは珍しくありません。
その場合、どのような流れで手続きが進むのでしょうか。裁判所に差し押さえられてしまう前にできることはあるのでしょうか?
このページの概要
住宅ローンが払えない原因
収入の減少
住宅ローンの融資金額は「契約時の収入が安定的に得られること」「年齢が上がるごとに徐々に年収が上がること」を前提に金額が決定されています。
そのため、住宅ローンの審査では「年収」「職業」「勤続年数」などから収入の安定性を見ているのです。
もし収入が大きく減少した場合、住宅ローンの返済計画が狂ってしまいます。
収入が下がる原因は失業(リストラ含む)転職、ケガや病気による休職などさまざまです。
2020年の新型コロナウイルスのような感染症の蔓延や東日本大震災のような自然災害も収入減少の原因になり得るでしょう。
支出の増加
住宅ローンに申し込む前に、自分なりに返済シミュレーションを行う人は多いでしょう。
しかし、すべてが予定通りに進むとは限りません。
特に「子供の教育費」はネックになります。
例えば幼稚園から大学まで公立に通うことを前提にしていた場合、それが全て私立に通う形になったとしたら1,000万円に近い支出増が予想されます。
そのほか、もし夫婦で離婚・別居する場合には養育費の支払いが必要です。
また、ケガや病気による医療費の負担も考えておく必要があります。健康保険で自己負担が3割になりますが、仕事ができない収入減少を考えると負担は大きいでしょう。
変動金利によって支出が増加することもある
住宅ローンには変動金利と固定金利の2種類があります。
固定金利は契約当初の金利が常に適用されるため、返済額が増減することはありません。
一方の変動金利では金利の動向次第で返済額が減ることもあれば、逆に増えてしまうこともあります。
2020年現在は空前の低金利ですが、今後の経済動向によっては金利が上昇する可能性は否定できません。
定年退職後に債務が残る
現在は晩婚化によって子どもを産む年齢が徐々に高くなっています。さらに、住宅を建てる年齢も高くなることが考えられます。
この場合、問題になるのが「定年退職までに住宅ローンを完済できない」ということです。
定年後は通常であれば年金以外の収入がなくなるため、毎日の生活に手いっぱいだと住宅ローンは完済できないでしょう。
「平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、国民年金の平均受給額は5万5,000円、厚生年金でも14万7,000円(男女の平均)です。
この収入だけで生活しながら住宅ローンを完済するのは無理があると言わざるを得ません。
参考:厚生労働省「平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
退職金で完済できるのが理想ですが、現在も住宅ローンの金額は昔に比べて徐々に減少傾向にあります。
参考:金融審議会市場ワーキング・グループ報告書|「高齢社会における資産形成・管理」|13P
想定よりも退職金が少ない場合、住宅ローンが完済できないリスクは考えられます。65歳以降にお金が不足することが判明しても、すぐにお金を得ることは難しいでしょう。
若いうちから「退職時に退職金はいくら手に入るのか」を正確にシミュレーションしておくことが重要です。
若い時から預貯金・投資を通じて老後資金を貯めるなどの対策も必要になります。
身の丈に合った生活ができていない
仮に年収が1,000万円あったとしても、税金などを考慮すると決して裕福と言えない人も少なくありません。
高層マンションの最上階を購入してみたものの、返済額が高すぎて返済できないというケースもあります。
高級マンションでは同じマンションの住民に合わせて、高級ブランドや高級車も購入するなど身の丈を超えた生活をしてしまうことが考えられます。
住宅ローンを捻出するのは「月々の生活費」です。
年収は高いのに生活できないといったことがないように、身の丈にあった生活で住宅ローン分のお金を捻出することが大切です。
住宅ローンを払えない場合の流れ
督促状を受け取る
住宅ローンを滞納すると、債権者である銀行などの金融機関から電話や通知の書類が届きます。
滞納が2ヶ月を過ぎたあたりで「来店依頼状」や「このままでは残債を一括で支払ってもらうことになる」という旨の督促状が届きます。
すぐに差し押さえや競売が行われるわけではありませんが、一括での支払いを請求されないためにもこの時点で解決するべきです。
期限の利益を喪失
期限の利益とは「一定の期限が到来するまで返済をしなくても良い」という債務者の利益のことです。
平たく言えば「分割して支払える権利」のことを指します。
滞納から一定期間が過ぎると権利を失い、住宅ローンの残債の一括支払いを請求されます。
また、ここまで延滞すると個人信用情報機関に事故情報として延滞情報が記録されるため、抹消されるまではローンの利用が原則としてできなくなります。
金融機関にもよりますが、「61日以上」または「3ヶ月以上」の延滞で記録されることになるでしょう。
保証会社によるローンの返済
期限の利益を喪失した後は、住宅ローンを契約した時に保証料を支払っている保証会社から「代位弁済通知書」が届きます。
債務者に代わって保証会社が金融機関に残債を一括返済したことを示す書類です。
これ以降の債権は、金融機関から保証会社に移ります。
競売開始決定
滞納から6ヶ月~8ヶ月ほどが経過した場合、裁判所から競売開始決定通知が届きます。
競売開始決定通知は競売の手続きを開始したことと、不動産を担保として差し押さえたことを知らせる書類です。
手続き開始の合図として、「現況調査」が実施されます。
裁判所の執行官や不動産鑑定士が自宅を訪問して、強制的に写真撮影・間取りの確認・環境調査などが実施されます。
入札期間の通知
滞納から8ヶ月以上経過すると、期間入札の決定通知が届きます。
「この期間までに入札する」ことを告知する内容で、競売にかけられる不動産の購入希望者が裁判所に金額を提示して購入を申し込むことができます。
「任意売却」をしたい場合はここまでに手続きが必要ですが、このタイミングでは金融機関が許可してくれない可能性が高くなります。
競売後の連帯保証人の義務
競売が行われたとしても、連帯保証人の義務が免除されるわけではありません。
競売後に債務者が自己破産した場合は、連帯保証人の給料が差し押さえられることも考えられます。
立ち退き
競売によって不動産が落札されたあとは、所有権が落札者に移ります。
居住を続ける権利がない場合はそのまま住み続けると「不法滞在」です。
立ち退きを長引かせると「強制執行」が行われ、裁判所の執行官によって荷物を運び出されて追い出されてしまいます。
住宅ローンを払えない時に考えるべきこと
住宅ローンを支払えない場合、今後どうするかを考えなければいけません。
「延滞前」「延滞した後」でやれることが異なる点は知っておく必要があります。
まだ滞納していない場合
住宅ローンを滞納していないタイミングであれば、さまざまな手段を取ることが可能です。
しかし、滞納をしてしまうと選択肢が一気に狭まるため、滞納前のできるだけ早い段階で対策に動きましょう。
具体的に選択できる対策例は以下のとおりです。
- 住宅ローンの借り換え
- 金融機関への相談
- リースバックを利用する
- 家を売却
住宅ローンの借り換え
現在返済中の住宅ローンの金利が高くて返済できないという人は、どうにもならなくなる前に住宅ローンの借り換えを検討しましょう。
金利の低いローンに借り換えることで毎月の返済額を減らすことができるほか、返済期間を延長することができます。
ただし、金利が下がっても返済期間が伸びる場合は返済総額が増えてしまうことに注意が必要です。
収入が増えたタイミングで「繰り上げ返済」を行うなど、増えた返済総額を減らす対策が必要になるでしょう。
借り換えが有効になる目安は以下のとおりです。
- ローンの金利差が1%以上ある
- 返済期間が10年以上残っている
- ローンの残高が1,000万円以上残っている
金融機関への相談
経済の悪化で会社の業績が落ちて給与が大幅に減ったりボーナスが支給されなくなったり、収入が減少することは誰でも可能性があります。
これまでと同じ金額での返済が難しくなった時点で、できるだけ速やかに金融機関への相談を行いましょう。
最近では新型コロナウイルスの感染拡大の影響で返済が困難になっている人が増えています。金融庁も金融機関に対して住宅ローン等の条件変更に柔軟に対応するように要請しているのが現状です。
参考:金融庁|新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえた対応について
あくまで金融機関側の対応次第ですが、「一定期間は元本の返済を猶予する」「ボーナス払いを中止する」などの対応をしてくれる場合があります。
ただし、返済総額が減ることはありません。元金の返済が猶予されても利息の支払いは必要です。
返済が猶予された分だけ利息が積み重なり、返済総額が増える点は知っておきましょう。
リースバックを利用する
住宅ローンが払えない場合は売却が頭をよぎります。通常は売却したら家を退去する必要があります。そこでリースバックという仕組みを活用することで、売却後も引き続き住み続けることが可能です。
リースバックとは、自宅を売却して現金化し、売却後も住み続けられるサービスのことです。
売却した住宅はリースバック業者が買い取り、その後は賃貸として退去せずに住み続けることができます。
家にそのまま住み続けられるほか、売却によってまとまった現金を得て住宅ローンを完済することが可能です。
デメリットとして、売却価格次第で住宅ローンを完済できないことが考えられます。賃貸に切り替わる以上、毎月の家賃が発生することもリスクになります。
家を売却
住宅ローンを払っていける見込みがないなら、思い切って早期の売却を検討することも一つの考え方です。
まずは今の家がいくらで売れるのかを把握する必要があります。不動産会社に査定を依頼するのが第一歩です。
不動産会社によって査定額が100万円単位で変わるため、必ず複数の不動産業者に査定を依頼しましょう。
とはいえ、不動産業者を1件ずつ訪問して査定を依頼するのは非常に手間がかかります。
web上の一括査定サイトを利用すれば自宅にいながら各社の査定額を把握できます。
すでに滞納している場合は「任意売却」
すでに住宅ローンを滞納してしまっているなら、金融機関への相談や借り換えといった手段はとれません。
競売が決定してしまった場合に取れる手段は「任意売却」です。
不動産を売却しても債務が残ってしまう場合、不動産の売却価格以上の返済をせず抵当権の抹消(金融機関が対象不動産に対して持っている権利を外すこと)が行える売却方法です。
自分の一存では決められず、競売になる前に金融機関と交渉して承認を得る必要があります。
競売よりも家を高く売れる可能性が高いため、可能であれば任意売却を選択するべきでしょう。
任意売却のデメリット
競売より高く売れる任意売却ですが、メリットばかりではありません。
「連帯保証人の同意が必要」である点は覚えておく必要があります。
住宅ローンを借りる際に債務を連帯している「連帯保証人」がいる場合、連帯保証人から任意売却の同意が必要です。
任意売却がしたくても、「連帯保証人に連絡が取れない」「同意が得られない」といった場合は任意売却を選択できません。
「債権者が求める価格と売買金額の差が大きい」場合にも注意が必要です。
任意売却は市場価格に近い金額で売却できますが、残債と市場価格に開きが大きい場合は金融機関から任意売却への同意が得られない場合があります。
とはいえ、競売に比べてメリットが大きいのも事実です。たとえ断られても粘り強い交渉を行う必要があるでしょう。
まとめ
住宅ローンを滞納した場合は最終的に競売にかけられ、不法滞在として追い出されてしまう運命にあります。競売にかけられる前であれば銀行に相談を持ち掛けたりリースバックなどの制度を利用したりすることで住み続けられる可能性もあります。
支払いが厳しいことが分かり次第、すぐに対策に動くようにしましょう。